名古屋高等裁判所 昭和30年(う)915号 判決
よつて記録を調査するに、原審第一回公判において被告人及び弁護人が本件公訴事実(原判示事実と同旨)を否認したこと、右公訴事実につき検察官より証人五十嵐梅松、同南相福、同西山昭子、同市川すゑの各尋問の請求があり、次回公判においてこれを尋問する旨の証拠決定があり、引き続き情状につき検察官申請にかかる前科調書の取調が行われ、且つ原審裁判官が被告人に対し本件と罪質を同じうする賍物故買、同牙保等の前科につき質問をしていることは、いずれも所論のとおりである。しかしながらわが現行の刑事訴訟法は証拠調につき公訴事実の認定と情状の認定との段階を区別しておらないのであるから、公訴事実に関する証拠調を全く終らない前といえども、裁判所は適宜必要な情状に関する証拠調をすることを妨げないのであり、従つてそれが被告人の前科に関する証拠調であつても直ちにこれを違法視すべきではなく、又証拠調に入つて後は被告人が任意に供述をする限り、裁判所は何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができることは刑事訴訟法第三百十一条第二項の明定するところであるから、被告人の任意の供述を求めるものである限り、それが前科に関する事実であつても、いまだこれを所論のように同法第二百九十一条第二項(控訴趣意中第二百九十一条の二とあるのは第二百九十一条第二項の誤と認める)の趣旨に反するものとはいえない。今本件の場合、記録によれば原審は前記のとおり被告人の前科調書の取調をなす前、既に公訴事実に関し主要な事項即ち原判示物件が被告人方において発見せられたこと、該物件が盗難品に相違ないこと及び被告人が五十嵐梅松に七千五百円を交付している事実につき捜索差押調書、長谷川卯市の実見始末書、同人の仮還付請書、被告人の任意提出書、領置調書及び証と題する書面の各証拠調を終つているもので、しかも前記前科調書の取調については被告人側もこれを証拠とすることに同意し、証拠調に何等異議を止めなかつたこと及び原審裁判官の前科に関する質問に対し被告人は全く任意に供述をしていることが認められるのである。それ故原審の前記訴訟手続にはいまだ所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節天 判事 中浜辰男)